2009年02月20日

村上春樹 意味がなければスイングはない

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村上春樹の小説を読んでいると、音楽への造詣の深さを強く感じますが、この本は小説ではなく、音楽に関するエッセイ集。
クラシック、ジャズ、ロックからJポップまで、著者にとって重要な音楽が、ジャンルを問わず題材として取り上げられています。それぞれのアーティストについてわかりやすく解説されているので、聴いたことがなくても内容がわからないということはありません。
エッセイなので評価は私的なものだ、と著者は何度も述べていますが、常に客観的な視点を持ちながら論考を進めているので、この種のエッセイにありがちな独善的な感想に陥ることはありません。もちろんテキストは極めて良質で、(独特の文体には好き嫌いがあるかもしれませんが、)真摯に、かつ丹念にアーティストの世界が追求されている一方で、構成が巧みなので読み物としても飽きることはなく、スッキリとした気分で読み進めることができました。
音楽について語っているのですが、内容的には芸術論といっても差し支えないほどに深いところまで掘り下げられています。表現に携わるものとして、考えさせられるところが多い一冊でした。


意味がなければスイングはない

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2008年11月11日

東京を読む-5- 東京都市計画物語

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久しぶりの「東京を読む」ですが、重要な一冊をまだ紹介していませんでした。
「東京都市計画物語」は、大正期以降、現代に至るまでの、東京の都市計画を概観するのにうってつけの本。
これを読むと、数々の都市計画が描かれては志半ばに挫折し、多くが手付かずのまま現在に至っているのか、ということが良く分かります。
著者の越澤氏は、本書の終章で「今日の東京の都市形態に江戸の都市構造を見出したのは陣内秀信氏である。しかし、東京の市街地をみると私の目には帝都復興と戦災復興という二つの復興計画がかろうじて残した遺産、そして挫折したプランの痛々しい姿が浮かび上がってくる。」と書いています。この一文が、本書の内容を象徴的に表しているように思います。
読み物としては、やや学術的で硬い印象もあるものの、現在の東京の姿を重ねて読むと、その成り立ちが分かったりして、面白いのではないでしょうか。
 
東京都市計画物語 (ちくま学芸文庫)

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2008年06月25日

東京を読む-4- 明治の東京計画

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これまで見てきたような「江戸から東京へ」という観点が一時ブームになったこともあり、明治から現在に至る「東京の都市計画」が見過ごされているような気がする。しかし、我々が利用している東京のさまざまなリソースは、明治以降の都市計画によってもたらされたものであり、これについても知っておきたいものだ。
その中でも特に強い志を持って進められた、明治期の東京の都市計画について書かれたのが、「明治の東京計画」(藤森照信:著、岩波現代新書)である。
最近では「建築家」として有名になってしまった藤森氏であるが、言うまでもなく本職は「建築史家」。その綿密な調査研究に裏打ちされた内容は、非常に充実している。一方で、建築探偵など多岐にわたる活動からもわかるように、テキストは明快で読む者を飽きさせない。

個々の計画は、さまざまな事情により完全に実現されたものはなかったが、その成果の多くは、名所として現在も目にすることができる。本書を読むことで、東京を更に深く楽しめることは請け合いである。
「東京かくあるべし」という大きなビジョンを持って、都市計画を進めようとした人たち。このような高い志を持たないまま、漫然と手が加えられている(ように見える)、現在の(そして未来の)東京を憂いてしまう。

明治の東京計画 (岩波現代文庫)
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2008年05月07日

東京を読む-3- アースダイバー

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「東京を読む」第3弾は、少しやわらかめの本を紹介したいと思う。思想家・人類学者である中沢新一が、東京について語った「アースダイバー」(講談社)である。

遥か昔、縄文海進期のころ、地球は温暖化のサイクルに差し掛かっていた。そのため、南極や北極の氷が溶けて、海の水位は氷河期に比べて100m以上も高く、東京の奥深くにまで海が入り込んでいた。この時期のすがたを手がかりに、現在の東京の見てみよう、というのが基本的な内容だ。
これまでも書いてきたとおり、東京は全くの平らではなく、高低差の多い微地形によって出来ている。したがって、海の形は複雑に入り組んでいた(リアス式海岸のように)。当時、海だった場所と陸地だった場所は、違うキャラクターを持って、現在の東京の一つの街に混在していて、大きな影響を及ぼしている。

そんな基本コンセプトを元に、さまざまな街が取り上げられ、語られている。中沢氏らしく、思考はあちこちに飛び跳ね、横断しながら、東京の神性について分析が加えられていく。…というとちょっと難しそうだが、テキストはとても平明で、内容が非常に魅力的なので、都市論云々といった面倒なことは一切考えなくても、楽しく読み進めることができる。

これまでに挙げた2冊のうちどちかかでも読んだ人は、意外に共通する観点が多いことに気付くかもしれない。江戸は微地形を利用して作られた街であり、それは現代に受け継がれているのだから、それは不思議ではない。
そして、縄文〜江戸〜現代、という視点であらためて見返してみると、ますます東京がイキイキとして見えてくるのである。
 
アースダイバー

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2008年04月15日

東京を読む-2- 見えがくれする都市

東京を読む第2弾として「見えがくれする都市」(槇文彦他:著、鹿島出版会)を挙げたい。
先日紹介した「東京の空間人類学」と同時期の作品であり、江戸から東京に継承された都市の構造を取り扱っている点も共通している。ただ、「東京の空間人類学」がどちらかといえば一般ユーザー向けに分かりやすくストーリー性をもって語られているのに対して、本書はよりミクロな視点から詳細に事象を取り扱っているのが特徴である。したがって、この2冊を読むと、江戸→東京をバランスよく理解できるように思う。
 
東京は坂の多い街として有名だが、これらを読んだ後で実際に歩いてみると(あるいは自転車でのんびり走ってみると)、微地形に沿って展開する都市のありようが、基本的には現在も江戸から変わっていないことに驚かされる。そして、「微地形の切れと縁(エッジ)」(本書の用語による)に、東京らしい場所が数多く見られることに気付く。読むと東京が面白くなる本である。

見えがくれする都市―江戸から東京へ
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2008年04月02日

東京を読む-1- 東京の空間人類学

建築を設計する上で、敷地調査は一番初めに行なうことなのだが、現況の調査はもちろんのこと、その敷地の歴史をできる限り調べてみることにしている。都市部においては案外古くからの記録が残っているケースもあったりして、調査自体が楽しい作業だ。調査結果がすぐに設計のアイディアに反映されるわけではないけれど、現状からは窺い知れない敷地の本来あるべき姿を思い描いたりできるので、実は大切な要素になっているのだろう。
前回書いたように、大学で卒業研究を指導しているので、学生には最初のステップの一つとして、敷地の歴史を調査してもらうことにしている。とはいえ、どんなふうに問題にアプローチすれば良いのか、なかなかイメージできないかもしれない。
そこで、分かりやすい事例であり豊富な文献がある東京を題材にして、参考になりそうな書籍を幾つか挙げてみたいと思う。題して「東京を読む」、シリーズ化します。
 
第1弾として挙げるのは「東京の空間人類学」(陣内秀信:著、ちくま学芸文庫)である。
東京という街は、実は江戸の都市構造をそのまま引き継いで成り立っている、ということを歴史的に紐解き、一般の人にも分かりやすい形で解説したもの。江戸という稀有な都市の活き活きとした諸相が、現在の東京にさりげなく息づいていることが分かったりして、肩肘張らずに読める。そして実際に街を歩きたくなる。
陣内さんは高名な建築史・都市史の研究家であり、内容は軽いわけではなく実は本格的。フィールドワークにより都市を分析する、というスタイルがとても参考になると思う。
もう20年以上前に出版されたものですが、現在も古さを感じさせない魅力があります。

東京の空間人類学 (ちくま学芸文庫)
posted by kuharc at 13:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍